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【Life Design】12年間のデザイン人生を振り返る

当日は快晴で、午後に会社に着き、昼会で最終出社の挨拶。この会社で12年間お世話になり、仲間にも恵まれ、切磋琢磨しながら、デザインスキルを純粋培養出来た事への感謝を述べ、部内のお世話になった方々へ挨拶回りをさせて頂きました。

遊技機器業界というのは、かなり特殊な業界で、一般的にはネガティブな印象があります。パチンコ、パチスロのデザインといってもピンとこない人がほとんどだと思います。しかし、企画開発部隊は、かなり高度な機構技術やデザインを求められます。アイデアもイメージやニュアンスしか伝えられません。

現市場のパチンコ台を見てもらえばわかる通り、複雑な駆動機構を取り入れたメカトロニクスは、滑らかでスムーズに液晶演出連動して動きます。ほかのプロダクトにはない演出との連動性までを考慮して作り込まれています。LED発光による電飾演出は、どの業界のプロダクトよりも先を走っていますし、音×光×映像のユーザー体験が人を感動へと誘います。このようにユーザーの感情を揺さぶる効果もあります。そこが最も強みだと考えてきました。

一方で欲望の刺激装置でもあるのが遊技機器です。射幸性が高い、賭博性がある、中毒にさせる。人の感情を揺さぶり、ノルアドレナリンの分泌を促すUXを秘めています。そのスペックの高さから、パチンコにのめり込むヘビーユーザーを虜にしてきたパチンコにはMAX機と呼ばれる、ハイスペックマシーンが主流でした。警察から規制が入り、現在はMAX機は作れないルールとなりました。

どの分野よりも複雑なスタイリングデザインと、そのモデリング技術は、ほかのどの分野よりも高度なテクニックを要することもあります。デザイナーに求められる造形スキルもかなり特殊です。プロダクトデザインといえど、グラフィックデザインも出来なければいけません。あらゆる角度から整合性の取れたデザインが要求されます。

恵まれた環境でした。その環境にあぐらをかくような事はしないように努めてきたつもりです。できる限りプラスαのデザインを追い求めてきました。120%の力を常に発揮する為に、スケッチ表現力も鍛えてきましたし、モデリングスキルも時間が許す限り磨いてきました。そこから派生してスケッチ研究会や、ハイブリットモデリングという手法も確立してきました。

本質的なデザインとは何かも、同時に考えてきました。災害時のパチンコホールの人命救助支援システムや、パチンコをすればするほど健康になるためのシステム、クラウドファウンディングを活用した全国一斉JACPODシステムの三つを軸にした新たな社会価値を企画し、提案したりもしてきました。この提案は社内では完全スルーでしたし、下請けなので、そのような提案をメーカー向けにするわけにも行きませんでした。

何も出来ない。自分のちっぽけな存在に憤りを感じ、無力感に襲われ、デザイナーとしての使命なんて持てない。所詮は賭博。ギャンブル。裏の世界。そんなダークなイメージに包まれながらも、この業界のこと以外で何か出来ないかを模索を始めました。そしてパラレルキャリアを築いていくことになります。

自分自身の存在価値とは何だろうと問い直しました。結論は子供達がお父さんはどんな仕事をしているの?と誰かに質問された時に、胸を張って応えられるような仕事かどうかに集約されます。今までは後ろめたさがありました。その後ろめたさを打破する為に課外活動に力を入れてきました。

実績となったようなものは何一つありませんが、子供達が
「パパはロボットのデザインしているの?」
「デザインの仕事しているの?」
と聞いてくれるようになってきました。

そして、「夢はデザイナーになること」と娘が言ってくれた時には、嬉しくなりました。その分複雑な心境もありますが、やはり子供達にとって誇らしい仕事をしている父親像が理想ではあります。決して今の仕事がダメだというわけではないですが、自分の一生のうちで何も大志を成し遂げられないというのもなんだかなぁという気がするのです。

デザイナーとしての人生を歩み始めて12年、お世話になった会社を退職し、9月より新たな環境で仕事をすることになります。長かったようで、あっという間でした。これからの人生も同じように、いや、それ以上に早く過ぎていってしまうでしょう。今この人生の節目にしっかりと今までの振り返りと今後のビジョンを出来る限り具体的に明確にしておくことで、自分軸はたとえブレたとしてもしなやかにしていけると信じています。

今後もTakebon Studioをよろしくお願いします!